コーヒーのお便り Vol.8 〜コロンビアと僕〜

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コーヒーのお便り

コーヒーのお便り Vol.8

コロンビアと僕

コロンビアは僕にとって近くて一番遠い国だった。
僕が住んでいたパナマは陸続きでコロンビアにつながっている。しかし、事実上そんな道は存在しなかった。
 両国の間にはジャングルが生い茂り、そこはいわゆるマフィアたちが占拠しており、マリファナなどを運ぶルートに使われていたのだ。パナマ人はよくそのエリアを”消された道”と表現していた。

 中南米を旅していた僕は、先の予定も立てず、気の向くままに片道切符での移動を繰り返していた。しかしパナマからコロンビアに移動する時、「コロンビアからの出国のチケットがないとコロンビアに入国できない」という話を聞いた。
 多くの旅人はここで頭を悩ませる。

出国チケットさえ持っていれば問題なく入国できるのだが、コロンビアを出国するチケットを買うということは、日付や行き先をあらかじめ決めなくてはならない。そんなことは避けたかった。かと言って、チケットを買うだけ買って、破棄するという無駄遣いもしたくない。だか、出国チケットを買わなければ入国できない。
 葛藤の末、保守派の旅人は使わないチケットを買い、破棄をするという選択肢を取る。
そしてチャレンジャーは「ダミーチケット」を作り、入国するのだ。

ダミーチケットとは、キャンセル可能なチケットを一度購入し、すぐにキャンセルして
購入した証拠の画面をだけ見せる。もしくは、予約して、「支払い待ち」のページを編集し、「支払い済み」と書き換えるなど、非常にグレーな手段で作成するチケットだ。

 もちろん係員に番号を調べられたら即バレて非常にややこしいことになるリスクがついて回る。僕はスペイン語を話せたので、事情を話し、こういうルートで抜けるという説明をすることで、チケットがなくても入国することができた
(念のため、ダミーチケットは作成していたが)。

 到着してまず僕が目指したのは、首都ではなく、地方都市だった。
パナマにいる時、言語交流アプリで出会ったコロンビア人女性に会うためだ。かれこれ、3年ほどは僕にスペイン語を教えてくれる。ただ、テレビ電話をしたことがあったとはいえ、ほぼ初対面の女性と待ち合わせするのは僕の人生で初めてだったし、コロンビアの女性と会うのも当然初めてだった。
 そんな僕の不安をよそに、ふらっと現れた彼女は、僕を昔からの友人かのように、痛烈なハグで歓迎してくれた。「あぁ、南米に来たんだな」となぜかその時僕は感じた。

 コロンビアは僕にとって思い出深い国の一つだ。貧困街に迷い込み、そばにいた方から「そこからすぐに出た方がいい」と注意されたり、ラーメン屋を経営する日本人になぜか携帯電話を買わされそうになったり、カジノにどっぷりハマってしまい、資金の大部分を溶かしてしまったり、コロンビア女性の家に転がり込んだり、思い出してもワクワクすることだらけだ。

 コロンビアだけの話ではなく、中南米には殺人や貧困、麻薬など、日本での”非日常”が
”日常”としてと存在している。その両者を隔てているのは決して分厚い壁などではなく、白線のようなものなのかもしれない。そして僕らは、その白線の上を歩く。
 
そんなことを思いながらいつものようにすっからかんになった財布を抱えてカジノからホテルに帰ったのだった。

 

 

 

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