深夜特急に憧れて 7 (ベトナム編 2)

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コーヒーのお便り


旅の航路も半分にさしかかり、東南アジアに滞在し初めて二週間程度経っていた。


何もできなかった英語もある程度話せるようになり、タクシーの運転手と喧嘩したり、出会ったヨーロッパの旅人と簡単な情報交換はできるようになっていた。

そんなこんなで僕は調子乗っていたのだ。そしてもちろんそのツケは想像以上に早くやってきのだった。
 
ベトナムの首都ホーチミンと言えば、種々雑多ばバイクが公道を埋め尽くす光景が有名だ。僕はホーチミンの中心にある公園(といっても代々木公園くらいの規模)にあるベンチに腰掛けその様子を眺めていた。

 タバコをふかしながら今日は何をしようかなぁと考えていた頃、一人の女性に声をかけられた。ジーパンのホットパンツ、胸元が開いたタンクトップにデニムのジャケットを羽織ったとても綺麗な人だった。
ただ、その女性が放つ空気は、いわゆる水商売の人そのモノだった。そして案の定、「マッサージでもしない?」と誘ってきた。

「路上で声をかけてくる人に良い人はいない」それが僕がこの旅で学んだ黄金律だったので、丁重にお断りした。あっそ、と気にも止めない感じで女性は颯爽と去っていった。

正直なところ、少し心が揺らぎはした。2週間ほど旅を続けた僕にとって、その女性はあまりに
”魅力的”だったのだ。
とは言え、断ってしまったものはしょうがない。僕は自分を納得させる気持ちでそばの屋台で出していた練乳たっぷりのベトナムコーヒーを飲み干した。

 その日の夜、宿を確保し、ホーチミンの探索をしている時、ふと前から歩いてくる人とに視線が行った。昼間僕に声をかけてきたあの女性だったのだ。驚いていると向こうも気づき、ニコッと笑いかけ一瞬のうちに距離を詰めてきた。柔道や空手の上手い人の間合いの詰め方ってこういう感じなのかななんくだらないことを思いつつ、僕はマッサージの誘いに首を縦に振っていた。
ちなみに決まり手は「再開するなんて運命じゃない?」だった。運命だと思った。

ところがこれは運命でもなく、単なる「現実」だったのだ。そして現実はここから急転直下する。間合いを詰められ、襟を絡めとられたらあとはもう投げ飛ばされるしかないのだ。気づかぬうちに一瞬で世界がひっくり返る。 

女性はいつの間には二人乗りのいかついバイクを持ってきて、「乗って」と言った。
え、歩いて行ける場所じゃないの?
バイクなんて乗せられて大丈夫なの?
突如襲い掛かる不安の中で、むりやり一抹の安心を探しながら僕は乗った。
後部座席に座ると久しく忘れていた良い匂いがした。

そして僕は地獄の三丁目へと連れて行かれた。

 

 

コメント

  1. 三五笑话 より:

    不知道说啥,开心快乐每一天吧!