深夜特急に憧れて 6 (ベトナム編 1)

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コーヒーのお便り


あの時の僕はどうかしていた。
改めてベトナムでの日々を思い返すとそうとしか思えない。

カンボジアでとっても濃密な日々を過ごした僕は、ベトナムへバスに乗り移動した。

カンボジアからベトナムへ国境を越える際に印象的なことがあった。
通常、国境を越える際にはもともといた国で出国スタンプをもらい、その後入国する国側で入国スタンプを押す。当たり前だけれどそのどちらかがないと入国できないし、出国できない。下手すれば捕まるそんなこんな旅行者は絶対にそのスタンプを押してもらう必要があるのだ。

スタンプはイミグレーションと呼ばれる場所でもらう。
列に並んで順番を待つ・・・のだが、ベトナムは違った。列がなかったのだ。一昔前によくテレビで見たようなワゴンに積まれたバーゲンセールの商品をみんなで取り合うように、イミグレに殺到していた。ベトナムのイミグレは高速道路の料金所のような小さな建物で、窓口に一人座っており、ガラス窓に空いた小さな穴からパスポートのやりとりをしている。そこに我先にとパスポートをねじ込んでいるのだ。あるいはそこから係員が手を伸ばしつかんだパスポートにハンコをして返すというなんとも言えない無法地帯になっていた。

僕も例に倣ってパスポートを思い切りねじ込んだが、一向に受け取ってもらえない。
明らかに僕よりポジションが悪い人のパスポートを受け取ることは何度かあった。これはおかしい、と思っている時に僕より後に来て先にスタンプをもらった欧米人が僕を手招きして列の外へ連れ出した。彼は「おい、そんなんじゃ一生この国に入れないぜ」と僕に忠告した。訳がわからず驚いた顔していると「パスポートのページに現金を挟むんだ。そうじゃないとやつらは受け取らない」と言う。

見れば確かに多くの旅人のパスポートには現金が挟まれている。窓口の人から若干見える程度に。無作為に選ばれているかと思いきや、係員の手はお金が挟まれたパスポートを優先的に選んでいた。

これには僕も笑った。まさか国境のイミグレでこんなにもわかりやすく賄賂の受け渡しがあるとは。

後々知ることになるのだが、旅人が圧倒的不利に立たされる国境だからこそ賄賂が要求されることが多かった。とはいえ、旅行代理店などからの賄賂要求はこの先何度もあったが、窓口の係員が要求するのは後にも先にも初めてだった。

僕はその欧米人にお礼を言い、他の人より少し多くお金を挟んでみた。一番後ろで不利なポジションにもかかわらず係員が僕に前に来るように言い、一回でスタンプが押された。
去り際に、不思議そうな顔していた旅人がいたので、お金を挟めとジェスチャーした。

ベトナムの国土の形は、日本に似て縦に長く本州と北海道をくっつけたような形をしている。お米文化も盛んで、フォー(お米の麺)が一般的に食されている。
また、かつてフランスの領地だったため、パンのレベルが高い。ちなみに一番有名なのはバインミーと呼ばれるフランスパンにお肉や野菜を挟んだサンドイッチで、近頃では日本の都市部で目にするようになった。

このベトナム旅では僕はとにかくフォーとバインミーを食べた。アジアを旅した中で、ベトナムほど口に合うご飯が日常的に食べれたところはない。
ちなみに、ベトナムのお金の通過は「ドン」で、当時は日本の100円が大体1万ドンくらいで、桁を二つ変えるくらいで計算がすごく楽だった。とは言え、ちょっとした買い物の度に何十万ドンという大きな額を支払った気になってしまって気が引けた。
(当時フォーやバインミーは良い場所で食べてで2〜3万ドン(2、300円)だった記憶がある)

そんなこんなで僕のベトナムの旅はとても優雅で快適なモノになるはずだった。

ところが現実はそうは甘くなかった。
僕は自分の旅の中でワースト3に入るくらいのトラブルに見舞われることになるのだ。

 

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