コーヒーのお便り。〜VOL.4〜ベトナムコーヒーと僕

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コーヒーのお便り

コーヒーのお便り。〜VOL.4〜

ベトナムと僕

 

僕が初めてバックパッカーとして旅をしたのは東南アジアだった。
20歳になる直前に、両親から成人祝い何が欲しい?と言われ

「旅に行きたい」

それだけ言って僕は大きなリュックを担いで空港に向かったのだ。

そして旅の3カ国目のベトナムに着いた時、僕は20歳になっていた。

 お隣カンボジアからベトナムへは夜行バスを使って移動することになったのだが、夜行バスは日本のそれと決定的に異なっていた。
車内には座席はなくフラットな空間が乗り口から後ろまで続いていた。
そして座席の代わりに1.5畳ほどのマットレスが数枚引かれ、それぞれに毛布一枚が置いてあったのだ。
本当の夜行バスだ!これは良い!
と意気揚々と寝転んだものの、後から乗ってきたおじさんが僕の隣に当たり前のように寝転んだ。
このマットレスは二人で1つだったのだ。結局、カンボジアからベトナムまでの道中、僕は見知らぬおじさんとベットと毛布を共有したのだった。

 首都ホーチミンを初めて訪れる人はバイクの多さに慄くのが通過儀礼と聞いていた。
そして例に漏れず僕もそうだった。
 無意識に呼吸が浅くなるほどの排気ガスと、けたたましい騒音に唖然としながら僕は街の中心にある大きな公園のベンチに腰かけた。国が変わると文化も変わる。そんな旅の醍醐味を噛み締めているとふと「マッサージしない?」と声がした。
 振り向くとそこにはほぼ裸のような露出度の高い服を着た女性が立っていた。慌てて立ち去ったものの、僕の心臓は名残惜しそうに脈を打っていた。


(実際この後、この女性と偶然にも再開し、女性からの「運命だね」という一言と笑顔になぜか頷いてしまって、気づいたらバイクに乗せられ見知らぬところで身ぐるみを剥がされた。初めて警察に行ったのもこの時だった。)

 最終日の夜、安宿で仲良くなった旅人と一緒にご飯を食べに行くことになった。街へ繰り出すと、路上には屋台がひしめきあい、雑然とした光景が広がっていた。初めて見る食べ物に目移りしながら歩いてると、中学生くらいの女の子が旅人に声をかけた。そして少し会話した後、旅人はお金をその子へ渡し、女の子は去っていった。物乞いかなにかと思い、気にも留めなかった。
 旅人とご飯を食べていると、先ほどの女の子またやってきて、その旅人にスッと手を差し出し、また去っていった。そして旅人の手には一本の巻きタバコが握られていた。
 もちろんそれはタバコのような形をした”何か”だった。旅人はそれを美味しそうに吸い、僕に差し出した。


 目が覚めたら僕は宿のベットに横たわっていた。そして幻聴と幻覚だけが僕にとって確かなものだった。
 
 僕はベトナムで多くの「初めて」を経験した。物を盗まれ、警察に行ったりもした。サンドイッチ屋さんと喧嘩もした。友達もできた。そして少しだけ恋もした。そんな目紛しい喧騒に巻き込まれながら僕はベトナムの日々をすごした。今でもふと、あの日々を思い出すことがある。 

「初めて」というのは何事にも変え難い経験なのだと、今になって思う。そしていまだに僕は8年前に経験したあの「初めて」をもう一度味わいたいと願っている。
鶏肉とアボカドが入ったサンドイッチの硬さと、練乳をたっぷりと入れたアイスコーヒーの甘ったるいあの味を。

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