ある男の手記を辿って (2) 〜チケット売り場のない駅〜

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旅行




気づいたら、
夜10時を回っていた。

引っ越し蕎麦を食べ、
部屋の片付けをしていたらもうこんな時間だ。


引っ越した直後の家というのは、
なんだか落ち着かない。


殺風景、
というわけではなないけれど、
どこか生気を感じない。

本当にここに自分が住むのだろうか。

まぁ、
そんなことはどうでもいい。


私の関心は、
誰かが残していった、
この古びれた手記に向けられていた。

タイトルはそうだな、



「インドに呼ばれた男の手記」



とでもしておこうか。



さて、明日の準備も終えた。


さっそく
続きの章を読もうか。


章題には



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インドの深さを知る


と記してあった。


ほう。
インドの深さ。。。


とな。


前回の内容からして、

これが単純に物理的な深さではないことは
一目瞭然だ。


では、一体なにが「深い」のだろうか。

文字通り興味深い。



以下、その男の手記を記載する。


呼ばれた男、インドを知る

 

インドの街並み




インドの首都、
ここ、ニューデリーに
足を踏み入れた僕は、

僕は、
ただただ圧倒された。


人の多さ、
ゴミの多さ、
匂い、
街の汚さ
等々、

噂では聞いていたが、
これほどまでとは、、、

ただ、圧倒された。

街角のいたるところで
服というより古びた布を身をまとった
男性が座り込んで、
あるいは寝転がって談笑している。


一方で、
この街に、「国」に似つかない、
綺麗なスーツを身につけている男性が
彼らには目もくれず道を颯爽と歩く。

そして
女性は声を忘れたかのように無言で、
そしてどこかうつむき気味で路地の隅を歩く。

その代わりに、と
どの車も常にクラクションを挨拶がわりにならし、
おまけに常にどこかしらから煙を吐いている。

耳と喉がやられる。



今自分はどこに立っているのか、
それすら分からなくなってしまうほどの

喧騒に、

佇む。




僕には、

電車に乗る必要があった。



あの、ガンジス川が流れる
「バラナシ」という街に行くためだ。


なんでも、インドを移動する際は、
電車が一般的らしい。

それも、
バラナシまではかなりの距離があるので、
夜行列車に乗る必要がある、

そう聞いていた。


流石の僕も、出発前にはある程度の情報を
入手していた。

観光地、アクセス方法、オススメの宿など、
基本的な情報だ。

そして、

電車のチケットを巡っての詐欺が
横行していることも、だ。


僕は自慢じゃないが、
よく騙される。

もちろん、
旅行に行く際は毎回、
気をつけているつもりだが、
心のどこかで


どうせまた被害にあうだろう。

と、
半ば諦めのような気持ちを抱えていたのも
事実ではあるのだが。


それはともかくとして、
僕はその悪名高い電車チケット購入
というミッションに挑むことにしたのだった。


そのため、まずは
電車のチケットを購入しに街を歩いた。

 




どうやらこの男、

つまりインドに

「呼ばれた」

この男は本当にインドに行ったのか。

ふむ。
思い切りがよく、
行動が早いというのは羨ましいことである。

それが災いして、
災難に巻き込まれやすい
というのを加味しても悪いことではなかろう。

私は行動が遅い方だし、
思い切りも悪い。

レストランの注文もいつも遅い。

見習わなければならないな。


しかし、

「考えること」は人間にのみ許された

特権であり、娯楽でもある。




にしても、
インドというのは想像以上に
すごい国のようだ。

テレビか何かで、インドを見たことがあるが、
どれもテレビ用に作られた虚像だと思っていたが、


どうやらまんざら嘘でもないらしい。



インドに電車が走っている。

これは知らなかった。
電車というのはどのようなものなのだろうか。

ページに目を落とす。



 

チケット売り場のない駅

 


僕は

「真実」



「嘘」

の境目が分からなくなっていた。


そもそも
境目などないのかもしれないとさえ、

錯覚し始めていた。




「電車のチケットは、駅で買える」


小学生でも知っているこの事実を

確かめることが、


ここインドでは困難だった。


駅に足を踏み入れ、
事前に得た情報に従い、

2階に上がる。


「ここにチケット売り場がある」


そう聞いていた。

しかし、

そこにあるはずのチケット売り場が
存在しない。


3階に行っても、
ない。


「電車のチケットは駅で買える。」

当たり前のようにこう思い込んでいた僕に、


「現実」はこう告げる。


「駅に電車のチケット売り場があるとは限らない」




道をゆく人に声をかける。


すると


「チケット売り場は移転した」

そう告げられた。


しかし、

悪名高い、
電車チケット。

このような詐欺の手口、

つまり、
偽のチケット売り場に連れて行く、

そういう詐欺が横行している。


そう聞いていた。


もっと情報が必要である。


片っ端から声をかける。


しかし、
返ってくる答えは

同じだった。


6人目に聞いた時、


「つい1ヶ月前に移転した
移転先は〜だ」

と説明を受けた。


そうか、
移転したのは最近のことであるならば、
事前情報と食い違っていてもなんら不思議ではない。

そう思い、
僕はその住所に向かうことにした。


道中、
馬車に乗った男性に声をかけられた。


「どこまで行くのか?」

と。

もらった住所を見せると

「近くまでなら乗せてやる」

と。

普段なら怪しむが、
この男、とても身なりがいい。


服装からして、
人を騙して小銭を稼ぐ必要がなさそうだ。

それに、
「そこまで」ではなく

「近くまでなら」乗せてくれるというその言葉も

なぜか信用に値した。


なにより、インドはとても暑い。

お言葉に甘えることにした。




そしてあることに気づく。


馬車だと思っていたこの乗り物は、
人力車だった。

さっきまで、
街角でたむろしていた男性が、
額から汗を吹き出しながら引っ張っていた。


そして僕が乗ることを知って、
その男は、少し顔を強張らせた。

だが、乗るしか無かった。


京都でも人力車をよく見るが、

それとは根本的に何かが違った。


なんというか、


「主人」と「奴隷」

その響きが似合うような構図だった。

スピードが落ちようもんなら
言葉のムチで彼を叩く。

僕には何も言えなかったし、
できなかった。



このような
居心地の悪さを感じながら、


僕は男性にお礼を言い、
目的地に着いた。




そして僕は
インドで始めての

洗礼を静かに、
そして鮮やかに

味わうのであった。





しまった。

気づいたら12時を超えていた。

明日から新しい職場へ初出勤なのに、
寝不足では顔が立たない。


今日はこれくらいにしたほうがいいだろう。


にしても、
この男、
なかなか楽しそうにしているではないか。

読んでいるだけなのに、
私自身も少し胸が騒いできた。


インドでの彼の体験を、
手記を通じて記事体験しているようだった。

心なしか部屋が埃っぽい。
掃除したはずなのに。


にしても、

駅にチケット売り場がない?

そんなことあり得るだろうか。


明日私は通勤のために駅に行く。

その時にチケット売り場がなかったら
どう思うのだろうか。

「チケット売り場がない駅」

電車だけが機械的に吸い込まれ、吐き出される駅。


昔読んだ小説、
(確か村上春樹の1Q84だったか)

に出てくる

「猫が住む街の話」を思い出した。

そのまちには人間がおらず猫だけが住む。

そして1日に1本だけ、
電車が通る。

そんな街だった。


その街の中で主人公は。。。


そんなことを考えていたら
眠りについてた。



私は今夜、
どんな街に行くのだろうか。


それを知る手段は

今のところ、

誰も知らない。


その3へつづく。



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