ある男の手記を辿って。〜インドに呼ばれた男〜

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旅行





立ち込める砂煙。

どこからか漂う
排泄物のツンとした匂い。

騒音と喧騒が入り混じる。

そう。僕はついにたどり着いたのだ。

日本から約6000キロ。

魅惑の国、インドに。




 



私がこの古びれた手記を見つけたのは、
全くの偶然であった。


春からの転勤に合わせ、
新居に引越した際、

偶然、物置の中から見つけた。

おそらく、
以前住んでた人が忘れていったものだろう。


退去時に気づかなかったのだろうか。


まぁ、いい。

それよりも、

この手記を見つけた時、
なんだか胸がざわついた。

見知らぬ人が残していたモノは
すべからく気味が悪いというものだ。


そのまま開かずに、
捨ててしまおうかと思った。

だが、もしこの手記が
前居住者の大切なものだとしたら、

おそらく連絡がくるだろう。
その時に


「捨ててしまいました」


ふむ。

これでは少し、

後味が悪い。


それに捨てることによって、

なにかしたらの
怨念のようなものが残るのも、

春からの新生活にとってバツが悪い。



となると、残された選択肢としては、

一度開いてみて、そこから判断する

これしかなかろう。


おそるおそるその表紙をめくる。



そこにはこう書かれていた。

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インドとの出会い

 

ほう・・・・


インドといえば

頭にターバンを巻いた人が宙に浮きながら、
手でカレーを食べるという、

あの国のことか。

どうやら、
持ち主はインドに行っていたみたいだ。


そしてこれはその記録、、、

のようなものなのだろうか。


だとすれば、

もう少し読んでみてもいいだろう。

これでもいっぱしの読書家である。

活字を読むのには抵抗はない。

(もちろん、人のものを勝手に読む、

ということには抵抗はあるが、
この際、目をつぶってもいいだろう)



以下はその男の手記を
適宜加筆しながら記そうと思う。



インドに呼ばれた男。

(以下、ある男が残した手記からの転載)



僕がインドと出会ったのは、
大学生3年生の頃だった。



僕はよく、海外を出歩いていた、

いわゆる
バックパッカーであった。


そんな生活をしていると、
その先々でいろんな旅人に会う。

中には僕より若いのに、長期間旅を続けている人、


どこにもいかず、ただ、そこの国の生活を満喫する人、
(通称:沈没者と言われる。)

そして、薬や、大麻に明け暮れる人、

様々な人に出会う。


その中で、

旅人たちが口々に言う、



『インドは最高だ。』

そして同時に


『最悪だ』

と。


結局のところ、

「最高」なのか、「最悪」なのかは

定かではないが、

少なくとも

その旅人たちにとって

「記憶に残る国」


であることは間違いなさそうだ。



そして、
決まって二言目には、


「インドに呼ばれた」

と口にする。


インドに「呼ばれる」とは
どう言うことなのだろうか。


そう尋ねても、

さっきまでの軽快な口調は影を潜め、

決まって、

口ごもる。


うまく説明ができないようだ。


どういうことだろうか。



「インドさん」という人物がいて、

それが、
特定の旅行者に

「インドに来ませんか」

と声をかける。


それならば話は単純であるが、


実際はそうではない。

「インドさん」という人物に
僕は会ったこともなければ、

おそらくこの先の人生で会うこともないだろう。

そして何より、
インドというのは
人名ではなく、


一つの国名である


さらに
聞くところによると、


「インドに呼ばれないと、
インドには行けない」

という定説があるようだ。


なんだって?

国に呼ばれないと、その国には入れない?

何を言ってるんだ?


確かにインドに入るためには
VISAが必要だし、フラッと入れる国ではない。


にしても、
入国条件が

「インドに呼ばれること」

だって?


国が人を呼ぶもんか。



それに「呼ばれる」ということについて

誰も説明できないし、

情報もない。

全くもって
旅人が言っている意味がわからない。

馬鹿馬鹿しい。



そう思って
僕は気にしないふりをして、

そして
日本に帰った。



日本に帰ると、
当たり前のように、

普段の大学生活が戻って来た。


退屈な講義、
友人とのたわいのない雑談、
バイトでの人間関係、

何てことのない、
普通の日々を淡々と過ごしていた。



しかし、
どこかで、

僕は「インド」に「呼ばれる」

のを心の片隅で待っていた。




インドが僕を呼んでいる

 

 

僕がインドに呼ばれたのは、

なんというか、、、

全くの偶然だった。


あれは確か、

大学の課題だったか、
あるいはただの暇つぶしだったか、

今となっては覚えていないが、

インターネットで調べ物をしている時だった。



偶然その時、

インドの通貨、「ルピー」

を目にしたのだった。


もちろんそれまで

「ルピー」というものが、

インドの通貨だなんて知る由もなかったし、

どちらかといえば、

あの「ゼルダ伝説」というゲームシリーズの中で
使われている通貨としか認識していなかった。



もっとも、

それが、インドの通貨であったということを

知った時はそれほど驚かなかった。



僕が

言葉を失って、

インドに「呼ばれた」のは、

その直後だった。



それは、
インドの通貨のロゴを見た時だった。










これがインドルピーのロゴである。


僕はこれを見た時に、

インドに「呼ばれた」ような気がしたのだ。

そして、旅人が、

なぜ「呼ばれる」ことについて、

口ごもるのか、

全て理解した。



まず、

僕がインドに「呼ばれた」
理由から説明しよう。



僕の苗字は

「きくち」

である。


「き」
 
「く」 

「ち」

である。


「き」







「き」







そう。

紛れもなく、

インドは、僕の苗字の頭文字、

「き」
を模した通貨を使っているのである。



これだ。


この瞬間、

僕は、

感じた。


インドが、僕を、



「呼んでいる」



そして旅人がが口ごもる理由は、

そう、インドに呼ばれる理由は人それぞれだからである。


だから、人に説明することは何の意味を持たないし、

「呼ばれたこと」がない人にいくら説明しても、

無意味である。


「知らない人に説明する」ということは

何にもまして、無意味なことなのである。



その
全てを悟った僕は、

そのままパソコンから、

航空券の手配、
そしてVISAの申請を行った。


インドのここを観光したいとか、

やりたいと思うことも、

特になかった。


でもなぜか、
行かないとダメな気がした。


なぜならインドが僕を呼んでいるからだ。






これが、
この章の最後に綴られた最後の言葉だった。


私は、
そっとその手記を閉じ、感じた。



この人は何を言っているんだろう。


インドに呼ばれる?


何をバカみたいなことを。



でも
不思議と私はその手記に対しての
気味の悪さをもう感じてはいなかった。

ただ、
純粋に続きが読みたい


見ず知らずの人の手記に、

そう、感じていた。


そして
次のページに手をかけた時、

玄関のチャイムが鳴った。


あぁ、そうだ。
引っ越し蕎麦を頼んでいたのだった。


無類の蕎麦好きの私だが、


この時ばかりは、
蕎麦を頼んだ自分を恨めしく思った。


蕎麦は早く食べてしまわないと
伸びてしまうし、

片手間に食べても美味しくない。


しょうがない。


蕎麦は蕎麦で食べてしまって、


続きは、、、

そうだな。

寝る前にでも読もうか。


そう思って僕は立ち上がり、

代金の850円を財布から取り出した。




その2へ続く。


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