ハリーポッターと不登校の少年

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あるいは全力のことばたち。

プリペット通り4番地に住む少年に出会って、20以上の歳月が流れた。


学校に行かなくなり、
日付感覚、曜日感覚を失い、繰り返される1時間。
途方に暮れていた少年に母親が買ってきてくれたのが最初のきっかけだった。

もちろん、少年にとってその本は特に興味を引くものではなく
(それどころか本の重さにげんなりとした)
母親にとっても息子へのささやかな教育の一部にすぎなかった。

少年は仕方なしにページをめくる。

しかし、気付いたら少年は読書に没頭した。

物置小屋で暮らすハリーにどこか親近感を覚えたのだ。

自分はみんなと違う。みんなと同じようにできない。


少年が抱えていた負の感情が、
ダーズリー家に忌み嫌われているハリーとのシンパシーを覚えさせたのだ。

もちろん、
小学校二年生が読むにはとても分厚く、
そして難解な表現が多かったのだが、
なにぶん時間は有り余るほどあった。

少年は不登校だった。



家の中で肩身の狭い思いをしていた少年が
本を読むだけで両親から褒めらることが彼を読書に夢中にさせた一つの理由でもあった。

本を読むと褒めてもらえる。自分が家の中にいても許される。

その想いがページをめくる指を加速させた。

兎にも角にも少年にとって、
ハリーポッターとの出会いは彼の今後の生き方に大きな影響を与えたのは間違いなかった。


そして20年あまりの歳月が流れ、少年は青年になっていた。

あれから多くの本を読み、それなりの経験と挫折を経験し、幾ばくかの恋もした。
そして、ハリーポッターの物語を結末を知った。

物語が終わりを告げた時、彼の脳裏にかつての情景が蘇った。

誰もいない昼下がりの部屋にうつ伏せになって本を読む少年。


自分も魔法が使えるかもしれない。蛇の言葉がわかるかもしれない。
そんな想像をしながら文字を目で追っていく時間。


母親が仕事から帰ってきて、

もうそこまで読んだの?えらいね。

その言葉に笑顔になる少年。
その言葉がまた聞きたくて本を読む少年。

それが僕だった。


残念ながら僕は生き残った男の子でもなく、
魔法も使えない、いわゆるマグルだったのだが、
それでもハリーポッターを通して、様々な世界をともに旅した。
ここではないどこかへと、9と4分の3番線から出る列車に乗った。


一冊の本が人生を変える。

そんな魔法みたいなことが起きたのだ。



いつか自分に子どもができた時、そんな話をしたいと思う。


そしていろんな世界を旅をしてほしい。

僕に本を買ってくれた母親と同じ気持ちで、
あのプラットフォームで息子を見送るハリーと同じ気持ちで、

きっと僕はいってらっしゃいと手を振るのだろう。

 

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