*プロフィール
東京都中学校教諭(教員6年目)
運動部の顧問、現在1年生の担任
不登校の子どもが安心できる居場所
「子どもの幸福のために」
そう書いてあるメッセージカードを握りしめ、教員採用試験を受けてから早6年。教員としての生活は日々目まぐるしく過ぎていきました。
・現在1年生36人クラスの担任を受け持ち、
・授業準備や校務分掌の仕事
・放課後2時間の部活動指導
・加えて消毒作業や1人1人の検温確認
・さらにはICT機器を使用する教育活動を目指し生徒用パソコンの導入作業など、膨大な仕事に追われています。
そんな中でも失いたくないのは、生徒1人1人と向き合う時間と「子どものために」という教育信念です。それは学校に通っている子どもはもちろん、学校に通えていない子ども全員のことを指します。
今から私は、担任したある2人の女の子についてお話します。この子たちは世の中でいう「不登校」の生徒たちです。この子たちの学校に通えなくなった理由、卒業までの過ごし方、進路について綴ります。教員としてまだまだ未熟ではありますが、この話が何かお役に立てれば、と願っております。
<Aさんの場合>
小学校高学年から学校に通えなくなり、中学に入った6月から中学3年生まで学校に通うことはありませんでした。理由は、不安障害と呼ばれるものでした。
Aさんのお母さん、そしてお兄さんも不登校を経験していました。
親子3人で家に引きこもり、生活していました。私はその子の担任として週に1回、3年間家庭訪問を繰り返しました。一緒に勉強することもあれば、他愛のない話だけをして帰る日もありました。
「どうかクラスの一員であることを知ってほしい」と思い、クラス全員でAさん宛にメッセージを渡したこともありました。
しかし、今思えば
「元気になってね」
「待っているよ」
というメッセージはAさんを追い詰めてしまっただけかもしれません。
中学3年生になり進路のことも考え、Aさんはフリースクールに通い始めました。しかし前から在籍している生徒同士でグループが出来ており、通うのが億劫になってしまいました。その時から話を聞く以外には、「どこか安心していられる居場所が見つかってほしい」と願うことしかできませんでした。自分の無力さに落胆しました。
その後、フリースクール先の先生やスクールソーシャルワーカーの方、子ども家庭支援センターの方の協力もあり、A子さんは週3日通うことができるようになりました。
通えるようになってから、Aさんの表情はガラッと変わり、笑顔が絶えないようになりました。そして2年半ぶりに中学校に足を運び卒業証書を受け取り、卒業することができました。
現在はフリースクールの高等部に進学しています。
<Bさんの場合>
イラストを描くのがとても上手な女の子でした。
中学1年生の時は仲の良い友達と毎日学校に通っていました。しかし、2年生になってから気の強い女の子グループが原因で、周囲の視線や話し声が怖くなり、学校に通えなくなりました。
Bさんはその後週に1回学校に通い、私と1時間勉強をしたり、他愛もない話をしたりしました。また、相談学級に入級し、週に1~2回美術や数学の学習をして過ごしました。
集団に入るのが怖いBさんは、卒業まで相談学級のグループ学習に入ることはできませんでした。また、周りの生徒が授業をしている時間に登校し、授業が終わる前に下校をしていましたが、人の足音に怯え人目を避けるような姿が見られました。この時私は、Bさんを週に1回学校に通わせていることが果たして良いことなのか、Bさんに毎週恐怖心を抱かせてしまっているだけなのではないか、と自問自答を繰り返していました。
そろそろ進路を考えなければ、という時期にBさんから「〇〇高校の通信制に通いたい」という話がありました。実はBさんのお兄さんも中学校3年間不登校でした。しかし通信制の高校に進学し、そこがとても温かい雰囲気で、丁寧な指導を行っており、充実した高校生活を過ごすことができました。その姿を間近でみていたBさんは同じ高校に通いたいと思ったそうです。
今年のクリスマス、その子からクリスマスカードと手紙が届きました。そこには「先生聞いてください!私、友達ができたんです。今、部活動にも入って、仲間も増えて楽しいです!」と書かれていました。
教員をしていて、こんなに嬉しい報告はありません。
<2人の女の子との出会いを通して>
感じたことが大きく分けて2つあります。
1つ目は、理想と現実の差が大きいことです。
教員として不登校生徒・学校に通っている生徒に対して分け隔てなく繋がりを持ち続けたいと強く思っています。どこに居ようとも大切な生徒の1人です。しかし、学校での業務に追われる日々で、正直に言えば連絡がおろそかになってしまうこともありました。同僚にも同じような思いをしている人がいました。
お世話になっている相談学級やフリースクールの方とも密に連絡をとっていきたいのが理想です。しかし、ケース会議はもちろん電話1本にしても時間を作ることへの難しさが課題であると感じています。
2つ目は、個々に応じた居場所を見つけることの重要さです。「学校に来させるためには…」と考える先生に何人か出会ってきました。確かに、集団の中で生活することは生きる力を身に付けるために避けて通れないことだと思います。
しかし、まずはその生徒にとって「安心して自分らしくいられる居場所」を見つけることが最優先だと思っています。
学校での勉強はいつでも取り戻すことができます。友達や仲間は学校以外でも出会うことができます。学校の先生でなくても、信頼できる大人を見つけてほしいです。
私が出会った2人の女の子は、幸いにも自分が安心できる居場所を見つけることができ、通い始めてからガラッと生活も気持ちも表情も変わっていきました。しかし、どことも繋がることなく、学校とプリントや提出書類の受け取りのみで卒業していく不登校生徒も見てきました。もちろん人それぞれ環境が違うので、何が正解かはわかりません。それでも、どこか安心できる居場所が1つでも見つかれば、道が開けていくのではないでしょうか。
<不登校の保護者の方へ>
生徒が学校に足が向かなくなった時、本人はもちろんのこと保護者の方も苦しい思いをしているはずです。これまで涙を流しながら話される保護者の方の姿を見てきて、心が締め付けられました。そんな時、できればお子様の幸せのために、お子様について一緒に考えさせてほしいです。
教員に限らず教育に携わっている人皆が同じ気持ちだと思います。〝不適合者″というひどい言葉をネットで見ることがありますが、大きな間違いです。
成長するスピードも成長の仕方も、1人1人違って当然です。お子様の“個性”を一緒に大切にしていける場所が見つかることを切に願っております。
<学校のことで悩んでいる人へ>
(先生なのにこんなこと言っていいのかな…と思いつつ…。)
自分を苦しめてまで学校に行く必要はないと私は思っています。だって、学校が全てではないし、学ぶ場所は他にもたくさんあるから。もちろん、嫌なことから目を背けてばかりではいけない。苦しくても立ち向かわなければいけないこともある。だからと言って、「学校に行かなければ」と思うことで、心が苦しくなるくらいならば、違う学びの場を見つけてみてもいいのではないだろうか。
安心できる居場所と、信頼できる大人に出会えることを願っています。
<最後に、ろ~たすスタッフの方々へ>
学校現場が組織として全体で対応していくのは当然のことですが、相談学級やフリースクールの先生方との連携なくして、1人残らず子どもたちを見守っていくことは困難であると感じました。いろんな大人がいろんな方向から子どもに関わりどれか1つでも心の拠り所になれば、と考えています。
まだまだ経験不足・勉強不足で甘い考えばかりかもしれません。しかし、今までを振り返りながら自分自身の信念をもう一度考え直す機会をいただけたことに、感謝の気持ちでいっぱいです。住んでいる地域も組織も異なりますが、同じ教育者として決意を新たに、子どもの幸福のために励んでまいります。
ありがとうございました。
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